【パッドの役割 6】ピアノやギターにもあるレゾネーター

サックスパッド(タンポ)の三つ目の役割、レゾネーターとしての役割について、例を挙げながら書いています。

ピアノの響板やギターの表板もレゾネーターです。これらは英語でサウンドボードといいます。

過去のサックスの資料を読むと、「(パッド中心の)メタル・ディスクがサウンドボードのように機能する」とあります。

1938 Conn Res-O-Pads “Metal disc acts as sound board”

ピアノの響板は基本的には前回説明したレゾネーター・ギターのレゾネーターと同じ構造です。前回はドンブリの様な形でアルミ製でしたが、ピアノの響板は平板で木製です。

「ピアノのしくみ 音が出るしくみ」YAMAHA楽器解体全書

「Grand Piano Stringing」wengleemusic.com

響板の上にブリッジ(駒)が取り付けられており、そこに弦が張られています。弦が振動すると、ブリッジを介して響板が共振するという仕組みです。響板は厚さ8ミリ程度の薄い板です。だから振動するのですね。

「Grand Piano Bridge」wengleemusic.com

また、響板を木製にすることで、高い周波数をカットし、音にまろやかみを持たせているそうです。このように響板はピアノ音作りにも深く関係しているのです。

「ピアノの響板は響かせないための板でもある」YAMAHA楽器解体全書

また、ギターの表板も英語ではサウンドボードです。

表板の裏側にはブレイシングという複雑な補強板が取り付けてあります。その補強板の取り付け方で共振のしかたが変わり、音色に大きな変化があるようです。

「ブレイシングとはなんぞや」クロサワ楽器

ブレイシングをどのように張るかはギター職人それぞれのこだわりがあって、そのことは『アコースティック・ギター作りの匠たち』に詳しく書かれています。

『アコースティック・ギター作りの匠たち』Amazon

私はギターは弾けないのですが、読んでいて楽しい本です。職人たちの並々ならぬ情熱を感じます。

このようにサウンドボード(レゾネーター)というものは、それ自体が振動するものであり、また楽器の音作りにとって重要な機構なのです

次回はサックスの話に戻ってきます。

【パッドの役割 5】レゾネーターとは何か

サックスパッド(タンポ)の三つ機能、一つ目はトーンホールを閉塞する機能、二つ目はリフレクターとしての機能、今回からは三つ目のレゾネーターとしての機能です。

技術者も含め、おそらく多くの人が混同しているのですが、レゾネーターとは、リフレクター(反射板)とは全く違う意味です

レゾネーターとは、共振板、共鳴板という意味です。過去のメーカーは、明らかにパッドにレゾネーターとしての役割を想定していました。

https://www.saxophone.org/uploads/museum/20/38020_814_1246.jpg
1950 Selmer Super Balanced Action “Resonators”

https://www.saxophone.org/uploads/museum/34/16534_1015_1317.jpg
1935 King Zephyr “Resonating Disk”

https://www.saxophone.org/uploads/museum/29/24629_765_984.jpg
1948 Martin The Martin “Resonating Metal Disk”

多くの場合、パッドの中央に取り付けられたプラスティックや金属の円盤がレゾネーターと呼ばれています。しかしそれだけでは機能を理解しにくく、パッドの取り付けまでを含めて考える必要があります。

レゾネーターとはどのようなものでしょうか。

レゾネーターという言葉は、サックス以外の楽器でも使われているものがあります。その名もそのままですが、レゾネーター・ギターという楽器もその一例です。1927年に最初のものが発売されました。

音を聴けば分かると思いますが、カントリーやブルースで使われるものです。この味わい深い音色がレゾネーター・ギターの特徴です。

構造をみると、ギター内部に薄いアルミでできたドンブリのようなものが入っていて、それがレゾネーターです。

その上にブリッジという部品が取り付けられて、そこに弦が張られている。弦が振動すると、その振動がブリッジを通してレゾネーターに伝わり、共振を起こします。

この動画の2分過ぎを観ると、レゾネーターには弾力があるということが分かります。弾力がないと振動しないからです。このレゾネーターが弦と共振することによって、このギターの独特な音色になるのです。

こうした適度な弾力があることが、レゾネーターのポイントなのです。(←コレ大切)

 

【パッドの役割 4】最高のリフレクターを持つ、セルマーパッドレス

パッド(タンポ)の二つ目の役割、リフレクター(反射板)としての役割について。続きです。

サックスの歴史の中で、リフレクターという意味では最高の設計と思われるサックスが1941年に発売されます。

1941 Selmer Padless

大戦でフランスからの部品供給が途絶えたセルマーUSAは、ビュッシャーに委託して「パッドレス」の製造を開始します。

このサックスはリング状のパッドがトーンホール側についているそれまでとは変わった設計のサックスです。

トーンホールの面積全部が硬い金属板で閉じられるので、無駄なく音を反射すると謳われています。またリング状のパッドの面積分全てが金属板と接触するので、閉塞する性能も3倍から9倍アップ!とのことです。

ところが表紙にあるように5年以上かけて開発したパッドレスは、わずか5年後の1946年に販売を終了します。その後、この設計が継承されることはなく、通常のパッド形式のサックスに戻ります。

なぜこの設計が継承されずに短命に終わったのでしょうか。

理由は定かではありませんが、私が想像するにはパッドの三つ目の役割がほとんど考慮されていなかったからかもしれません。

パッドの三つ目の役割とは、レゾネーターとしての役割です。

 

【パッドの役割 3】パッドのリフレクターの機能

パッド(タンポ)の二つ目の役割は、リフレクター(反射板)としての役割です。

過去のサックスの資料では、パッドの説明にReflect(反射)という言葉が出てきます。

https://www.saxophone.org/uploads/museum/03/32903_1336_1881.jpg
1922 Conn New Wonder

“reflecting them (sound waves) instead in full volume on their proper course”
「音波をフルボリュームで、かつ正しい方向に反射する」

音量や音色の輝かしさを得るために、パッドは徐々に音をより反射するように改良されます。パッドに金属やプラスティックの円盤が取り付けられるようになった理由の一つは、音を反射する性能をアップさせるためのようです。

1954 Selmer Mark VI

ここでは金属の円盤を「トーンブースター」という呼び方をしています。

ブースターはトーンホールのリムの大きさ近くまで大きく、出音を大きくする、音質を明るくすると書かれています。

つまりはリフレクターとしての機能について言及しています。円盤をトーンホールの大きさに近いほどに大きくすれば、効率良く音を反射するということです。

 

【パッドの役割 2】パッドのトーンホールを閉塞する機能

私が思うには、メーカーはパッドに主に三つの役割を併せて持たせていました。

まず一つ目のパッドの役割は、当たり前ですが、トーンホールを閉塞する役割。

パッドに今と同じように金属の円盤が取り付けられるようになったのは1930年代くらいのようです。その前はパッドの中心に円盤ではなく、リベットが打たれていました。(さらにもっと前はリベットも中心に何もないパッドでした。)

何も付いていないパッドだと、湿気を吸収して徐々に膨らんでしまい、その防止のために中心にリベットが打たれるようになったようです。

1927 Martin Handcraft

1927年のマーティン社の説明では、”Center Rivet Prevents Swelling” 「中心のリベットが膨張を防ぐ」とあります。
(現在は革に防水加工がされているものもあるので当時よりもっと状況は良いでしょうけど)

このようにリベットやレゾネーターを取り付けることでパッドがしっかり閉じる性能をアップさせていたんですね。

ちなみにビュッシャー社の説明で膨張したパッドが描かれています。さすがにこうなる前には気づくとは思いますが。(笑)

1930 Buescher Snap-On Pads

 

【パッドの役割 1】過去の資料から読み解くパッドの役割

私は、十年以上前から自分が使うサックスの調整は自分でしているのですが、大変奥が深いです。設定のちょっとした違いで音色や吹奏感に大きな変化があります。

中でも、パッド(タンポ)の取り付けはリペアの中心といってもよいくらい、大切な技術です。

このサイトに載っている過去のサックスの資料を読み解くことで、過去のメーカーがパッドをどのように考えていたのか、その変遷を見て取ることができます。

そして、サックスのパッドの取り付けは、単にトーンホールが閉じるというだけではなく、音色や吹奏感に大きく関わっています。

 

「君の名は。」 題名のない音楽会

1月8日に放映された「題名のない音楽会」。テレビ番組や映画のテーマ曲がその回の主題でした。その中での、去年からヒットしているアニメ映画「君の名は」のテーマ曲です。

オーケストラと共演され、美しいソロを奏でているのは、高橋弥歩さんのサックスです。

様々なサポート、レコーディングで活躍されている方です。MayJさんやクリス・ハートさんのサポート、本田雅人B.B.Stationなどなど、様々に活躍されていて、ここでは紹介しきれないほどです。

詳しくは下記ブログまで。
サックスプレーヤー 高橋弥歩の blog

奥津マウスピースのトラディショナルⅡモデル(アルト)を、様々な仕事で使用しているとご本人からお聞きしていました。

ただ、この演奏は聴いてみて判るとおり、とてもクラシカルな音色。形は奥津マウスピースっぽいけど・・・。不思議に思ってご本人にお聞きすると、使用されているのはやはりトラディショナルⅡだとか。レッドジャバと組み合わせてクラシックに対応した、とのこと。奏者の技術でこんなにも対応可能なんですね。素晴らしい。

 

サックス奏者は歯が命

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上の奥歯が痛くなり、歯医者に行くと大きな虫歯ができているとのこと。大きく削って神経を抜き、今後この歯をどういう方針で治療するか聞かれました。

治療法は主に二種類あって、

(1)削ってできた大きな穴を樹脂剤で埋める。ただそれでは大きく穴のあいた歯の強度は弱いままなので、今後割れたり折れたりする可能性がある。その場合は抜かなければならない可能性も高い。

(2)歯を一回り小さく削り、銀かセラミックの被せ物をする。大工事だが、強度があって歯は長持ちする。

上の奥歯はサックスを吹く上で大切な歯です。藤陵雅裕さんに習っているとき、上の奥歯と舌の側面をくっ付けるように言われました。それが基本的な舌の高さだと。そうすることでよりスムーズでコンパクトな息の流れができます。初心者は多くの場合、舌の位置が低すぎだと。

ですので奥歯が今後割れる可能性のある(1)は無いかなと。銀にするかセラミックにするか分かりませんが、被せた歯を今後の戒めとしたいと思います。歯磨き、大切です。

画像の武将は徳川家康。顔をしかめているのは、信玄にボロ負けした悔しさ忘れないために、戒めとして絵師に書かせたのだとか。彼は歯が痛いわけではありません。

 

三木俊雄氏にレビューを書いていただきました。

Toshio Miki

三木俊雄氏にレビューを書いていただきました。

ご自身がリーダーとして率いる「フロントページ・オーケストラ」や、「小曽根真 featuring No Name Horses」など様々な方面でご活躍中です。

レビューにもありますが、去年にお話をいただきオットーリンクスラントから、今ではメインのマウスピースとして使用していただいております。(この写真のマウスピースはまだスラントだそうです。)

レビューには、自分に合ったマウスピースを選ぶ際に参考になることも書かれています。是非、リンク先の全文をお読みいただければと思います。

一部抜粋
”僕が今まで吹いてきたマウスピースの中ではこのKen Okutsuは最高のマウスピースだ。”

全文はこちら。

三木俊雄氏のレビューのページ

テナー・トラディショナル・モデル 7

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

CNC導入時の試作品

CNCを導入した最初期の試作品です。まだロゴを入れる技術はありません。

CNCで切削し、ハンドフィニッシュすることではるかに個体差が少なく作ることができます。当初は、CNCで作りさえすればすぐに品質の高いマウスピースが製作できるかと思っていました。

ところが、その予想は大きく外れます。出来上がったものは、音色にしても音の立ち上がりなどの性能にしてもイマイチで、まだまだ既存の商品によくあるレベルといった感じだったのです。CNCを使っただけでは高品質のものは作れないのです。

開発の過程で最も難しかったのは、豊かな倍音と安定した吹奏感を両立させることでした。それを実現するためにはまだ非常に多くの見落としがあったのですが、それが何なのかこの段階では分かりません。ただ見落としている要素が、おそらくもっと微細な部分にあるのだろうということが分かっただけでした。

マウスピース開発を始めてから、CNCを導入した試作品ができるまでにかかった時間が約一年です。しかしここからの方が長かったのです。この先、設計の細かい部分を検証するのにさらに二年を要することになります。