【パッドの役割 5】レゾネーターとは何か

サックスパッド(タンポ)の三つ機能、一つ目はトーンホールを閉塞する機能、二つ目はリフレクターとしての機能、今回からは三つ目のレゾネーターとしての機能です。

技術者も含め、おそらく多くの人が混同しているのですが、レゾネーターとは、リフレクター(反射板)とは全く違う意味です

レゾネーターとは、共振板、共鳴板という意味です。過去のメーカーは、明らかにパッドにレゾネーターとしての役割を想定していました。

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1950 Selmer Super Balanced Action “Resonators”

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1935 King Zephyr “Resonating Disk”

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1948 Martin The Martin “Resonating Metal Disk”

多くの場合、パッドの中央に取り付けられたプラスティックや金属の円盤がレゾネーターと呼ばれています。しかしそれだけでは機能を理解しにくく、パッドの取り付けまでを含めて考える必要があります。

レゾネーターとはどのようなものでしょうか。

レゾネーターという言葉は、サックス以外の楽器でも使われているものがあります。その名もそのままですが、レゾネーター・ギターという楽器もその一例です。1927年に最初のものが発売されました。

音を聴けば分かると思いますが、カントリーやブルースで使われるものです。この味わい深い音色がレゾネーター・ギターの特徴です。

構造をみると、ギター内部に薄いアルミでできたドンブリのようなものが入っていて、それがレゾネーターです。

その上にブリッジという部品が取り付けられて、そこに弦が張られている。弦が振動すると、その振動がブリッジを通してレゾネーターに伝わり、共振を起こします。

この動画の2分過ぎを観ると、レゾネーターには弾力があるということが分かります。弾力がないと振動しないからです。このレゾネーターが弦と共振することによって、このギターの独特な音色になるのです。

こうした適度な弾力があることが、レゾネーターのポイントなのです。(←コレ大切)

 

【パッドの役割 4】最高のリフレクターを持つ、セルマーパッドレス

パッド(タンポ)の二つ目の役割、リフレクター(反射板)としての役割について。続きです。

サックスの歴史の中で、リフレクターという意味では最高の設計と思われるサックスが1941年に発売されます。

1941 Selmer Padless

大戦でフランスからの部品供給が途絶えたセルマーUSAは、ビュッシャーに委託して「パッドレス」の製造を開始します。

このサックスはリング状のパッドがトーンホール側についているそれまでとは変わった設計のサックスです。

トーンホールの面積全部が硬い金属板で閉じられるので、無駄なく音を反射すると謳われています。またリング状のパッドの面積分全てが金属板と接触するので、閉塞する性能も3倍から9倍アップ!とのことです。

ところが表紙にあるように5年以上かけて開発したパッドレスは、わずか5年後の1946年に販売を終了します。その後、この設計が継承されることはなく、通常のパッド形式のサックスに戻ります。

なぜこの設計が継承されずに短命に終わったのでしょうか。

理由は定かではありませんが、私が想像するにはパッドの三つ目の役割がほとんど考慮されていなかったからかもしれません。

パッドの三つ目の役割とは、レゾネーターとしての役割です。

 

【パッドの役割 3】パッドのリフレクターの機能

パッド(タンポ)の二つ目の役割は、リフレクター(反射板)としての役割です。

過去のサックスの資料では、パッドの説明にReflect(反射)という言葉が出てきます。

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1922 Conn New Wonder

“reflecting them (sound waves) instead in full volume on their proper course”
「音波をフルボリュームで、かつ正しい方向に反射する」

音量や音色の輝かしさを得るために、パッドは徐々に音をより反射するように改良されます。パッドに金属やプラスティックの円盤が取り付けられるようになった理由の一つは、音を反射する性能をアップさせるためのようです。

1954 Selmer Mark VI

ここでは金属の円盤を「トーンブースター」という呼び方をしています。

ブースターはトーンホールのリムの大きさ近くまで大きく、出音を大きくする、音質を明るくすると書かれています。

つまりはリフレクターとしての機能について言及しています。円盤をトーンホールの大きさに近いほどに大きくすれば、効率良く音を反射するということです。

 

【パッドの役割 2】パッドのトーンホールを閉塞する機能

私が思うには、メーカーはパッドに主に三つの役割を併せて持たせていました。

まず一つ目のパッドの役割は、当たり前ですが、トーンホールを閉塞する役割。

パッドに今と同じように金属の円盤が取り付けられるようになったのは1930年代くらいのようです。その前はパッドの中心に円盤ではなく、リベットが打たれていました。(さらにもっと前はリベットも中心に何もないパッドでした。)

何も付いていないパッドだと、湿気を吸収して徐々に膨らんでしまい、その防止のために中心にリベットが打たれるようになったようです。

1927 Martin Handcraft

1927年のマーティン社の説明では、”Center Rivet Prevents Swelling” 「中心のリベットが膨張を防ぐ」とあります。
(現在は革に防水加工がされているものもあるので当時よりもっと状況は良いでしょうけど)

このようにリベットやレゾネーターを取り付けることでパッドがしっかり閉じる性能をアップさせていたんですね。

ちなみにビュッシャー社の説明で膨張したパッドが描かれています。さすがにこうなる前には気づくとは思いますが。(笑)

1930 Buescher Snap-On Pads

 

【パッドの役割 1】過去の資料から読み解くパッドの役割

私は、十年以上前から自分が使うサックスの調整は自分でしているのですが、大変奥が深いです。設定のちょっとした違いで音色や吹奏感に大きな変化があります。

中でも、パッド(タンポ)の取り付けはリペアの中心といってもよいくらい、大切な技術です。

このサイトに載っている過去のサックスの資料を読み解くことで、過去のメーカーがパッドをどのように考えていたのか、その変遷を見て取ることができます。

そして、サックスのパッドの取り付けは、単にトーンホールが閉じるというだけではなく、音色や吹奏感に大きく関わっています。

 

サックス・パッド(タンポ)の購入

サックスのコンディションを大きく左右している、パッド(タンポ)。パッドには様々な種類があり、操作感や音色に影響を与えています。なかなか奥が深い分野です。

オーバーホールをするにはパッドを購入する必要があります。

国内にもパッドを扱っている業者や流通網ももちろんあるのですが、個人向けに販売しているところは少なく、その多くがリペア業者向けです。

個人向けにパッドを販売しているのは、以下のサイトがあります。

  • Music Center (伊) – ピゾーニなどの高級パッドが購入できるサイト。ピゾーニのプロ・パッドはヤナギサワ社がパーツとして採用している(いた?)パッドです。送料が高いのが玉にキズ。
  • MusicMedic.com (米) – ミュージック・メディック・オリジナルのパッド(旧プレシジョン・パッド)や、カンガルー革のパッド(Roo Pad)などが購入できます。送料が安い。

今回はピゾーニのプロ・パッドを購入しました。プラスティックのリゾネーター(反射板)付きのノーマルタイプです。(ノーマルタイプ以外に、”J”という、少し固めのタイプがある。)

購入時に様々な種類のリゾネーターから選ぶことができ、厚みを4.0mmと4.3mmから選ぶことができます。革の表面がとても柔らかく滑らか、防水加工されていて持ちが良く、パッドの大きさにも誤差が少なく扱いやすいのが特徴と言えるでしょう。

 

キーのガタの修正

マウスピース作りの合間を縫って、テナーのオーバーホールをしています。去年の今頃もオーバーホールの様子を書こうと思い、途中で面倒になってやめてしまいましたが、今年は続けようと思っています。

まずは分解してガタの修正。ビフォー・アフターになっています。

キーにガタがあるとパッドが正常に閉まらなくなることがあるので、大切な作業です。ガタがある場合、キーポストの内側の、ピボットスクリューの頭が当たる部分を削ります。ピボットスクリューがより奥まで入るように調整することでガタを解消できます。

セルマーの現行のモデルは、(SA80シリーズ2以降だったかな?)こうした調整がいらないようにキーの内部にバネが入っている仕組みになっています。

ヴィンテージのコーンでは、こうしたピボットの調整が簡単にできるようにピボットスクリューを横からイモネジで止めて、スクリューの位置を変えられる方式になっています。

その1


その2


トーンホールのリムに金メッキをかける

サックス・オーバーホールの続き。

トーンホールのリムを整えたとき、ベアブラスの部分に簡易金メッキをかけておきます。ヤスリがけをして真鍮の表面がむき出しになっているところにしかメッキはかかりません。(ラッカーのかかっている部分にはメッキはかからない。)

トーンホールのリムが濡れると錆び、そこに汚れがたまり、さらに水分がたまりやすくなる。こうした錆びと汚れの相乗効果で段々とパッドが傷んでいきます。

汚れを防ぐことはできないけれど、錆びを防ぐことができればパッドに良いのではないだろうかと思い、数年前から試していますが、効果は・・・、あります。(たぶん)

部分的にメッキをかける装置には他にもあります。→プロメックス

あくまでホビー用です。いずれメタルのマウスピースも作るので、もっと大掛かりなメッキ装置を購入する予定。

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トーンホールのリムを整える

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テナーのマークⅦのオーバーホールの作業を続けています。

トーンホールのリム(パッドと接する部分)を綺麗に整えます。
メーカーにもよるのでしょうけど、オールドのセルマーはかなりガッタガタです。

リムに凸凹があったり、リム全体が平面ではなく歪んでいたり。
当然、その分パッドとの密着が失われる可能性があります。

オーバーホールの際には、楽器店でやってもらうといいと思います。

人工大理石の切れ端に、紙ヤスリを貼り付けたもので平面に整えます。
オイルストーンを使うリペアマンもいるようですね。

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テナー・サックスをオーバーホール中。

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テナー・サックスのサブ機、フラセルのマークⅦを分解調整中。

マウスピース製作作業の合間にオーバーホールしようと思います。

ほったらかしになっていた知識集ページのパッド張替え編を書き進めることができたらなぁ、と考えています。