【パッドの役割 10】パッドの取り付け方で音が変わる

セルマーや、多くのヴィンテージサックスのメーカーのオリジナルの取り付けは、パッドの裏側には空間が作られています。すでに書いたように、これはパッドにレゾネーターとしての機能を持たせるためです。

しかし現在、サックスの大多数のパッドが、キーカップとパッドの間をシェラックで埋める方法で取り付けられています。(そうした方法は海外では「フローティング」と呼ばれています。)

この二つの方法で、どのような変化が生まれるのか、比較して確かめたことがあります。同じモデルのサックスを一方はフローティング、もう一方を伝統的なパッディングで取り付け比較します。また、私の師匠の藤陵雅裕氏にも吹いていただき、助言をいただきました。

まずフローティング(パッドの裏側が埋まっている)ですが、音量が確かに大きくなります。とにかくガッチリ鳴る感じです

それはパッドの中心の円盤がより固定的に取り付けられているからだと思います。コンクリートのトンネルの中で大きな音を出すとその反射が大きくなるように、サックスの内部の壁面も硬く固定的なものにしたほうが、反射音は増えます。言い換えると、以前説明した「パッドのリフレクターとしての機能」はアップするということです。

マウスピースから出た音はそのままダイレクトにベルまで届き、音量が大きくなります。楽器全体が鳴るというよりも、音の多くがベルから出ている印象を受けます。サックスの音がベルから前方に飛ぶような、指向性のある鳴り方になります。

音色も、雑味が少ないクリアな音色になります。音に伸びやかさ、膨らみといった要素が少なく、輪郭のはっきりした硬質な音色になります。人によってはキンキンと耳障りに感じるかもしれません。音に余韻が少なく、音と音の繋がりに難を感じるかもしれません。

つまり、レゾネーターの裏を埋めて機能させないということは、ピアノの響板やバイオリンのボディを接着剤で固めているようなことなので、音に膨らみが無くなるのは当然といえば当然です・・・。

パッドの裏側を埋めてキーの開きを広くとり、バンバン鳴らすセッティングにする工房が「リペアの上手い工房」として繁盛店になる傾向がありますし、大きな音が出るというは多くの奏者にとって分かりやすい魅力なのでしょう。ただ、それが本当に音楽的に表現力の高い楽器なのかは、私には大いに疑問です。

逆に、シェラックを減らしてパッドの裏側に空間を作るとどう変化するのか。それはまた次回。

 

Function of Sax Pad Resonator was Forgotten – Defect of “Floating”

Many repairers ( and many modern manufactures ) install saxophone pads by a method called “floating” (float padding). “Floating” is to make a layer of shellac on a key cup and float a pad on it. A large amount of shellac is used to fulfill the space between the key cup and the pad. Repairers can adjust the inclination of pads easily, so the method is widely used.

I think that “floating” has a serious defect. It cancel the function of sax resonators, and it makes the tone of the saxophone thin.

Resonators are objects that vibrate in response to other vibrations. So resonators must be elastic. The sound board of the piano and violin, the resonator of the “resonator guitar”, the microphone diaphragm, all resonators are elastic.

King, Martin, Selmer, Conn….. many old manufacturers used a small amount of shellac to attach pads. It was to make a space between the pad and the key cup. (It seems that Selmer still installs pads in this way.)

These are original pads from vintage saxophones. You can find a little shellac was used.
(1. Selmer Mark VI  2. Selmer Mark VII  3. Vintage Martin)

When you press the original resonator, it moves slightly. And you can find it is elastic. So the resonator can resonate with the vibration of the air column. It looks like a microphone diaphragm or a speaker cone. If there is no hollow space on the back side of the resonator, it is not elastic and does not resonate.

In “floating”, there is no space between the pads and the cups. So currently, most of the sax resonators make no resonance. I think that many repairers ( and many modern manufacturers ) think that the pad resonators are reflectors. And they think that the spaces are made mistakenly.

When you make hollow spaces in the key cups, you will find that the resonators work and enrich the tone. You can get more complicated tone with much overtones. And you will also find that the type of the material of the resonators changes the tone. Many repairers and players can not find the difference in material because quite a lot resonators aren’t working.

However, “padding with space” also have a inferior point. Pads need long time “burn-in” (break-in) like speaker cones. The pads just after installation make only small resonance. To get good resonance, players must have time and patience and skill.

I think “floating” was begun as a simple method to install pads quickly. It was also convenient for players because it was unnecessary to spend time for “burn-in”. It was easy both for players and for engineers. But engineers changed generations, the function of the pad resonator was forgotten. And many saxophones lost their original complicated tone.

 

【パッドの役割 7】共振しなければレゾネーターではない

サックスパッド(タンポ)の三つ目の役割、レゾネーターとしての役割について書いています。

マイクロフォンの振動板で、ダイアフラムというものがあります。

ダイアフラムは音波に共振することで、その音を捉えます。ですのでダイアフラムというのは、共振板(レゾネーター)といえなくもありません。

下記のリンクを見てもらえると良く分かりますが、このダイアフラムもやはり弾力のある形状になっています。

「マイクロホンの内部構造」オーディオテクニカ

これまで例として挙げてきたレゾネーター・ギター、ピアノの響板、ダイアフラム。こうしたレゾネーター全てに共通しているのは、弾力があり、振動するようになっていることです。

サックスのパッドも、いわゆるヴィンテージサックスといわれる昔のものは、多くが弾力のある取り付けになっています。
(ビュッシャー・スナップオン・パッドやセルマー・パッドレスなどの例外はあります。これらは構造的にそうした取り付けができない。)

写真はセルマーのマークVIのオリジナルのパッドです。
(二枚目はマークVII、三枚目はヴィンテージ・マーティン)

また、ヴィンテージ・コーンのレゾパッド。
「レゾパッド」サックス専門店ウインドブロス

どれも使われているシェラック(接着剤)がかなり少ないことが分かります。

パッドの端の部分にだけシェラックが付いていて、中心の台紙の部分には付いていません。つまりレゾネーターの裏側(キーカップとパッドの間)に空間ができるように取り付けられています

そのため、取り付けられたパッドを上から押すと、レゾネーターがわずかに動きます。パッド裏の台紙がバネのように作用しており、弾力があるのです。ダイアフラムと形状が似ていますね。

こうした弾力のある取り付けになっているから、レゾネーターはサックスの原音(気柱の振動)に共振・共鳴することができます。そしてそれが、サックスの音に厚みや深みといった様々な色彩を付加している。これがパッドの三つ目の機能、レゾネーターとしての機能です。

ですので、サックスのレゾネーターとは、本来はその裏側に空間があることを前提にしている言葉です。

もしキーカップとパッドの間がシェラック等で埋められていたなら、パッドはレゾネーターとしての音響的な機能を併せ持っていません。振動しないからです。言うなればそれらは、音響的には純粋なリフレクターです。

(しかし現在、製造やリペアの現場で、この空間は埋められることが大多数のようです。)

以上が、少し分かりにくいサックスパッドのレゾネーターとしての役割です。

パッドの機能というのはおそらく多くの方が思うよりも複雑です。パッドはトーンホールを閉塞し、同時に音を反射するものでもあり、またそれ自体が共振している。

このように三つの役割を併せ持つようにするのが、伝統的なパッドの取り付けなのです。

 

【パッドの役割 1】過去の資料から読み解くパッドの役割

私は、十年以上前から自分が使うサックスの調整は自分でしているのですが、大変奥が深いです。設定のちょっとした違いで音色や吹奏感に大きな変化があります。

中でも、パッド(タンポ)の取り付けはリペアの中心といってもよいくらい、大切な技術です。

このサイトに載っている過去のサックスの資料を読み解くことで、過去のメーカーがパッドをどのように考えていたのか、その変遷を見て取ることができます。

そして、サックスのパッドの取り付けは、単にトーンホールが閉じるというだけではなく、音色や吹奏感に大きく関わっています。