【パッドの役割 12】倍音豊かな音作り

今年もあと僅かですね。

毎年の正月のテレビ番組で、「芸能人格付けチェック」というものがあります。様々な分野の芸能人が、高級品と安価な品の違いを見極められるのか、テストされるバラエティ番組です。

その中で、ストラディバリウスなどの超高級楽器と初心者用の楽器とを芸能人がブラインドテストで聴き分けるというのがあります。

テレビ番組によくあることで値段にこだわりすぎのきらいはありますが、楽器の音色を比較できる良い機会なので毎回楽しみに観ています。(来年の正月もあるようです。)

私には全く違いが分からないものもありますが、弦楽三重奏とかは比較的聴き分けやすいです。判別するコツは、倍音に留意して聴くことです。

倍音とは一つの楽音に含まれる様々な周波数のことで、音色の決め手になっているものです。

下の倍音についての動画では、倍音(overtones)を含むほどひずんだ音色、複雑な響きなっていくことが分かります。

倍音を知るには、下の動画もとても良いと思います。

中村明一氏によると、倍音には大きく分けて二種類、整数次倍音と非整数次倍音とがあります。(これは中村氏独自の分け方かもしれません)

整数次倍音とは、いわゆる一般的にいわれる倍音のことで、多く含むほどジリジリ、ビリビリと音色がひずみ、迫力を増します。

非整数次倍音とは、ノイズ成分のようなもので、サックス奏者に分かりやすいのはサブトーンの音です。ズズズズ、とかカサカサいうような音です。多く含むほど音は暖かみやまろやかみを増します。

こうした倍音をある程度多く含む楽音が、伝統的には豊かな音色といわれているのです。

倍音に留意して弦楽三重奏などを聴いてみてください。きっと違いが判別できると思います。安い楽器は倍音が貧弱か、とても耳障りです。ストラディバリウスのような高級な楽器は倍音が豊かで、音の太さがずっと太く感じられると思います。

こうした弦楽器が高価な理由の一つは、こうした音色の差なのだろうと思います。つまりレゾナンス、レゾネーターの機能の差に、億単位の価値が生まれているのです。

以前書きましたが、ギターでもピアノでもより美しい共鳴音、倍音を得るために心血を注いでいます。(『格付けチェック』にはピアノやギターの聴き比べもあります。)

面白いのは、2017年の正月の回でミュージシャンのGackt氏が「(安い楽器の方が、)ハーモニーが一見綺麗に聴こえるので引っかかりやすい」と述べています。確かに、倍音が少ない楽器の方がクリアで音の重なりもスッキリ聴こえる場合もあります。

この指摘は、私が長く書いている「現在のサックスレゾネーターはほぼ機能してない」ということと通底していると思います。

現在のサックスはレゾネーターを共振させない取り付け(フローティング)が一般的です。そのほうが雑味が少なくクリアで硬質な音色になります。要するにそれは倍音が少ないということです。

かつてのサックスの音作りはもっと倍音の豊かさを大切にしていたと思います。だからこそパッドレゾネーターというものをわざわざサックス独自に発明し、手間をかけて取り付けていたのです。それを使わないのはとても勿体ないことだな、と私には思えてなりません。

それでは、良いお年を。

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