The Sax誌 2018年11月号に奥津マウスピースに関する記事が載っています。
The SAX vol.91 (ザ・サックス) 2018年11月号 amazon
「いま注目すべきマウスピース22本」という記事の中で、製作者が書いたコメントとともに、最近話題のマウスピースが紹介されています。奥津マウスピースで紹介されているのは、ヴィンセントへリングのカスタムモデルと、アルト、テナーのトラディショナルモデルの三つです。是非読んでみてください。
ところで、ブログやフェイスブックなどで、私はサックスのレゾネーターについて長く書いています。
レゾネーターを含むパッドの取り付けは、サックスの音作りの大きく左右している技術なのですが、時代とともに変質してきているという内容です。つまり製造やリペアに必要な設計思想の一部が、どうも継承されていないように思える、という話です。
実はこうした事情は、サックスのマウスピースにも同じようにあります。マウスピースは本来は製作に手間がかかる上に、なかなか高値では売れない分野なので、そうした設計上のアイデアの変質というのはより顕著かもしれません。
私がサックスマウスピースの販売を始める前に、三年間、試作を繰り返していた時期がありました。
当時、CNCを使いハンドフィニッシュで丁寧に作れば 、高品質のマウスピースはすぐにできると思っていました。だいたい一年程度ですぐにできるだろうと。しかしどんなに精度を上げて作り上げてもなぜか品質は上がらず、プラス二年、膨大な試作品を作ることになりました。
その結果分かったのは、品質が上がらない原因の多くは精度の問題ではなく、私が設計上の様々なアイデアを理解していなかったからなのです。
レゾネーターの話でもそうですが、なぜパッドの裏側には空間があるのか、なぜその形状にならざるを得ないのか、それを理解していなければレゾネーターは機能しません。つまり作り手の設計についての理解度が、結局は製品の品質を分けているのです。
マウスピースも同じで、作り手がカラクリを理解していなければ、どんなに精密な工作機械を使っても、どんなに丁寧にハンドフィニッシュしても無駄だということなのです。
私は大学では歴史を専攻していたのですが、多くの技術革新は精度の向上ではなく、設計思想の更新によってもたらされるものです。銃器の発展、自動車の発展、楽器の発展でもそうですし、ジャズミュージックの発展でもそうでしょう。
マウスピースの開発にかかった三年間で理解したのは、かつて作られていた名品といわれているものに、様々なアイデアが盛り込まれていたかということ。そしてその合理的な組み合わせが考えられていたということです。しかしそうしたアイデアは、現在では継承されていないものも実に多いのです。
かつての技術者が持っていたアイデアを継承し、手間をかけて実直に作られたマウスピースが、今後のジャズサックスには必要だと思います。私が製作しているマウスピースは、かつての名品のコピーにとどまることなく、より洗練されたものになっているはずです。
「The SAX vol.91 11月号 」、是非参考にしてみてください。