パッドの取り付け方でサックスの音色がどう変化するのか。前回とは逆に、シェラックを減らしてパッドの裏側に空間を作ると、レゾネーターが振動し、音色に変化を与えていることが分かります。ほとんどの奏者が違いを認識できるくらい、大きな違いがあります。
キンキンした硬くて耳障りな音の成分が弱まり、より柔らかい音色になります。音色に木管的な暖かみや、プラスティックレゾネーターであればジリジリ、ビリビリというひずんだ音が付け加わっているのが分かります。より厚みのある、複雑な音色になります。
音がベルからのみ出ている感じではなく、楽器全体が響いている感じです。レゾネーターが振動する分、振動が楽器全体に分散されるので、ベルから出る音量自体は減るように感じます。音に膨らみがあって、吹いた音に余韻があり、音のつながりも良いです。ただ、奏者によっては雑味が多く音が濁っている、「遠鳴り」しないと感じるかもしれません。
パッドの裏側に空洞があるのでパッドの弾力は増し、また気柱の振動が直接キーカップに伝わらないためか、より少ない力でパッドを閉じることができるように思います。
このセッティングを吹いて思うのが、50、60年代とか、昔に録音されたサックスの音色のようだということ。試奏した藤陵氏も「こっちのほうがより古いサックスの音色になる」とコメントされていました。レコーディングされたサックスの音色が年代によって違うのは、録音機材の違いだけではおそらくないのでしょう。
私が比較に使ったのはセルマーマークVIやVIIなどオールドのセルマーですが、こうしたセッティングの音色、吹奏感が、当時の設計者が想定していたものなのだろうと思います。ヴィンテージサックスを好んで買い求めるような方であれば、こうしたセッティングを好む奏者は多いのではないかと思います。
(ただし注意点もあって、後に書きますが長時間のエイジングが必要です。)
考えてみると、このようなカラクリで音に厚みや深みを加えているのはサックスという楽器だけです。サックス以外のリード楽器(クラリネット、オーボエ、ファゴットなど)は管体が木製なので、こうした機構が無くても音に厚みを持たせられるということのなのでしょう。
(写真はアメリカン・セルマーの12万番台。ヴィンテージセルマー使用者が集まると、何万番台が良いとか、オリジナルラッカーが、とかマニアックな話になります。そうした話題は実に楽しい。現状、ほとんどのヴィンテージセルマーは、設計者が想定したオリジナルの音色とは違うのではないか、と頭をよぎりますが、まぁ、楽しいから良いのです。)