私は以前、雑誌のインタビューを受けたのですが(The Sax誌2015年1月号)、そのときには使用されているプロ奏者の名前を尋ねられ、数人しか挙げることができなかったことを覚えています。
その一年半経った今日、ここに挙げきれないほどの奏者にご愛顧いただいていることは、奥津マウスピースがプロの現場に急速に浸透しつつあるといえると思います。
奥津マウスピースが支持される理由は、主に二つあると思います。
(1)非熟練工による分業体制を採らず、一人の人間が設計から最終的な仕上げまで管理していること。そのため、整合性のある一貫した物作りができるということ。
(2)かつてのマウスピースの名作にあった設計思想を綿密に調査して、それらをブラッシュアップした形で使っていること。
かつてあった設計思想は、そのほとんどが継承されずに失われてしまっているのが現状で、それらを復興できたメーカーは、私の知る限り奥津マウスピースが初です。
こうした品質を維持するには、私自身が習得しなければならない知識や技術も多岐にわたり、また一本あたりに本当に多くの手間が掛かります。正直、商売をかなり度外視して手間を掛けています。
ここ数十年でマウスピースメーカーの数は確かに増えました。しかし大量生産化や国境をまたいだ分業化の中で、本当にハイレベルのものを作ることができるメーカーは逆に減りました。おそらくこうした傾向は今後も強まるでしょう。
ヴィンセントへリング氏、三木俊雄氏、多田誠司氏。彼らはヴィンテージマウスピースと呼ばれるものから奥津マウスピースに移行した方々です。(ヴィンセントはヴァンドレン社のプロトタイプを経ましたが)これらのことは、彼らのような経験豊かな奏者が納得できる品質のマウスピースを作ることが、この数十年間に徐々に難しくなったことを端的に示しています。
このような状況の中で奥津マウスピースが存在し品質を維持できることが、私は意義のあることだと心から思っています。そのために、品質に見合った価格に今後なっていくことは、どうかご容赦いただきたく思います。