【パッドの役割 9】サックス・レゾネーターの大多数は機能していない?

キーカップとパッド(タンポ)の間の空間をシェラック(接着剤)で埋める取り付け方は、リペア技術者の間でも一般的で、パッドの交換時には多くのパッドがこの方式で取り付けられています。

実際に私が試奏したり分解したサックスで、意図的に空間を作ってパッド交換されていたものをみたことがありません。

こうした「埋める」方式は、英語ではフローティング(floating)と呼ばれています。シェラックの層を作り、その上にパッドを「浮かべる」といった意味です。「Sax On The Web」を読んでも、圧倒的な多数派のようです。

典型例は、このようなやり方です。
https://www.youtube.com/watch?v=q0n00Em_AGM

様々なリペアのブログを読むと、このような取り付けはパッドをキーカップに対して傾ける調整方法がしやすく、リペア技術者の間では好まれているようです。逆に「セルマーの初期設定はシェラックが少なく、調整がしにくい」と言われてしまうこともあります。

多くの記事や事例の中で、私が見つけた唯一の例外があります。Ernest Ferron著『The Saxophone Is My Voice』(サックスの構造や調整に関する書籍)の中に、”Leave a one millimeter space between the card and the key”とあります。(P.69) 『台紙とキーの間に一ミリのスペースを空けなさい』という意味です。なぜそうすべきなのか、理由は書いていませんが。

前回の話と総合すると、現在、サックスの「レゾネーター」は、実際にはその大多数がレゾネーターとしては機能していない、と私には思えます。しかしそのことを不思議に思う人はいないようです。

現在主流の、この「埋める」フローティング方式ですが、私も試したことがあります。そのときに音色や吹奏感にどのような違いがみられたのかは、また次回に書きたいと思います。

(剥がしたパッドの写真。一番上はセルマー・マークVI(アメセル)のオリジナル。次が国内の工房で交換されたもの。一番下がアメリカの技術者によるもの。アメリカ人はシェラックよりもホットメルト系の接着剤を好むようですね。)

4 thoughts on “【パッドの役割 9】サックス・レゾネーターの大多数は機能していない?

  1. ものすごく面白い考察ですね。現在、サックスのオーバーホールを考えているので勉強になります。そういえば20?年前、サックス雑誌に出ていた伊東タケシさんは、パットの接着を薄くしているとコメントしていました。「このマーク6にはこういうつけ方」とか。(当時はマーク6を使っていた)その意味が分からなかったのですが、今回のブログを読んで、なるほど~です。

    • 貴重なコメントどうもありがとうございます。奏者の方で、そこまで考慮して調整されている話ははじめて聞きました。キャリアの長い方であれば昔のオリジナルの吹奏感も知っているので、そうしたセッティングの方がしっくりくるのかもしれませんね。

  2. 大変参考になります。セルマーのフローティング構造だとパッドの芯の材質も音に影響するような気がしますが。色々試してみたい内容ですね。

    • コメントしていただき、どうもありがとうございます。フローティングよりもセルマー本来のやり方(パッド裏側に空間がある取り付け)の方が、共振する分、違いは出そうですね。その辺りのことは今後書こうと思っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です