セルマーや、多くのヴィンテージサックスのメーカーのオリジナルの取り付けは、パッドの裏側には空間が作られています。すでに書いたように、これはパッドにレゾネーターとしての機能を持たせるためです。
しかし現在、サックスの大多数のパッドが、キーカップとパッドの間をシェラックで埋める方法で取り付けられています。(そうした方法は海外では「フローティング」と呼ばれています。)
この二つの方法で、どのような変化が生まれるのか、比較して確かめたことがあります。同じモデルのサックスを一方はフローティング、もう一方を伝統的なパッディングで取り付け比較します。また、私の師匠の藤陵雅裕氏にも吹いていただき、助言をいただきました。
まずフローティング(パッドの裏側が埋まっている)ですが、音量が確かに大きくなります。とにかくガッチリ鳴る感じです。
それはパッドの中心の円盤がより固定的に取り付けられているからだと思います。コンクリートのトンネルの中で大きな音を出すとその反射が大きくなるように、サックスの内部の壁面も硬く固定的なものにしたほうが、反射音は増えます。言い換えると、以前説明した「パッドのリフレクターとしての機能」はアップするということです。
マウスピースから出た音はそのままダイレクトにベルまで届き、音量が大きくなります。楽器全体が鳴るというよりも、音の多くがベルから出ている印象を受けます。サックスの音がベルから前方に飛ぶような、指向性のある鳴り方になります。
音色も、雑味が少ないクリアな音色になります。音に伸びやかさ、膨らみといった要素が少なく、輪郭のはっきりした硬質な音色になります。人によってはキンキンと耳障りに感じるかもしれません。音に余韻が少なく、音と音の繋がりに難を感じるかもしれません。
つまり、レゾネーターの裏を埋めて機能させないということは、ピアノの響板やバイオリンのボディを接着剤で固めているようなことなので、音に膨らみが無くなるのは当然といえば当然です・・・。
パッドの裏側を埋めてキーの開きを広くとり、バンバン鳴らすセッティングにする工房が「リペアの上手い工房」として繁盛店になる傾向がありますし、大きな音が出るというは多くの奏者にとって分かりやすい魅力なのでしょう。ただ、それが本当に音楽的に表現力の高い楽器なのかは、私には大いに疑問です。
逆に、シェラックを減らしてパッドの裏側に空間を作るとどう変化するのか。それはまた次回。
非常に興味深い記事で面白いですね!
下記のページも関連する記事になっているのですが
リフレクター&レゾネーターとしての機能を兼ね備えているということですかね。
それはオーディオにおけるスピーカーと同じように響かせつつ、響かせない適度なバランスということなのかな。
https://www.syos.co/en/blog/science/pad-resonators-part-1
コメントしていただき、どうもありがとうございます。
リンク先の文章では、リフレクター&レゾネーターとしての機能を兼ね備えているというよりも、リフレクターの機能にしか着目していないようです。私の考えとは逆です。
結論部分で、「振動しないので、レゾネーターと呼ぶのは誤解を生む。リフレクターと呼んだほうが良い」と書かれています。この実験でパッドがどのように取り付けられているかは書かれていませんが、レゾネーターは裏側に空間があってはじめて機能するということを見落としているのだと思います。
昔の技術者はレゾネーターをダイアフラムのような振動板と捉えていたのだと思います。ご指摘のスピーカーのコーンも、マイクのダイアフラムと出入力が逆なだけで同じものですよね。こうした構造はコーン社のレゾパッドなどを見ても、明らかだと思います。こうした仕掛けで音色のバランスを最終的に調整していたんでしょうね。