サックス奏者に欠けているリペアの知識
「サックス奏者が自分で楽器を分解などしてはいけない」
「サックスの調整はリペアマンに任せるのが一番」
「半年に一度は楽器を楽器屋さんにチェックしてもらおう」
吹奏楽部やジャズ研究会など、なにかの団体に所属したことのあるサックス奏者であれば、このような言葉を聞いたことがあるのではないかと思います。
私自身も以前はそうでしたが、多くのサックス奏者にはリペア、メンテナンスに関しての知識はほとんどありません。ときどき楽器店に持っていき、なんとなく「おまかせ」でメンテナンスしてもらうという方が多いかと思います。
サックスはとても高価で繊細な品物ですし、私達サックス奏者の多くが大変大切に扱っています。しかしその大切な楽器を具体的にどのような道具、方法で調整しているのかをほぼ全く知らないというのは、考えてみるととても不思議なことです。
「おまかせ」でのメンテナンス
15年ほど前、当時私は大学生で、今も使用しているセルマー・マーク7のアルトを、ある楽器店でオーバーホールしてもらいました。そこは一流のリペアマンが集まり国内外のプロの利用者も多く、サックスのリペアに関してかなり有名な楽器店です。当時私はリペアの知識が全く無かったので的確な注文が出せず、やはりほぼ「おまかせ」でやってもらった訳です。
その後仕上がった楽器を吹いて驚いたのは、以前と楽器の音色が全く違っていたことです。確かに音抜けやイントネーションは良くなったのですが、ギャンギャンいうような音色で、残念ながら私の好みの音色ではありませんでした。サックスはその後学習したリペアの技術により自分で調整しなおしましたが、このような経験から楽器調整の知識をしっかりと手に入れる必要性を痛感した訳です。
それまで私は、サックスというのはそのモデル毎に設計上決まった「あるべき状態」のようなものがあって、腕の良いリペア職人が調整すれば必ず同じ結果になるのだろうと思っていました。つまりその楽器にとってベストコンディションというのは一つしかないのだろうと思っていた訳です。
今となって分かりますが、サックスの性能を引き出す正常なコンディションというものには幅があります。どのような音色を出したいのか、目指す操作性やイントネーションなどによって楽器の調整というのは変わります。そうした幅があるのにもかかわらず「おまかせ」で依頼するのは、リペアをする方がどんなに優秀な職人であっても、奏者にとって最善の結果になるとは限らないのは当然のことです。
資料の少なさ
サックスのリペアを学習しようと思い立ち、驚いたのはサックスのリペアに関して解説した書籍がとても少ないことです。私の知る限り日本語のものは皆無です。(その後、日本語でもリペア解説書が発売されました。詳しくはこちら)
私のリペア技術は、幾つかある英語の書籍、インターネット上での解説(それもまたほとんど英語)、そして実際に自分で調整をして学んだものです。
サックスのリペアについてもっと知ろう
私は習得したリペアの方法について、このウェブサイトにて解説していこうと思います。自分でリペアをするしないに関わらず、リペアに関しての詳しい知識を持っていることはサックス奏者にとって大きなプラスになると思います。
私達サックス奏者は上達する過程でさまざまな問題に直面します。楽器の構造や調整に関しての知識があれば、その問題の原因が自分の演奏技術にあるのか、それとも楽器などの装備にあるのか判断する助けになります。また楽器店のリペアの方とも的確な意思疎通がとれるようになります。
このブログのリペアに関する記事はなるべく丁寧に書くつもりですが、全ての奏者に自身での調整をお勧めしている訳ではありません。手先の器用さや、時間の使い方は人それぞれですし、楽器を傷めてしまうようなリスクも伴うからです。